面白い医術書 ~針聞書~
2009年 06月 29日
ふとした事でみつけた本で、九州国立博物館に所蔵、常設展示されている針灸に関する
東洋医学書として、永禄11(1568)年10月11日、摂津の国(現・大阪府)の住人・茨木
元行によって書かれたました。
資料的に貴重な医学書ではありますが、病気の元凶となる「蟲」たちの姿とその特徴が
コミカルで、最初、私は「妖怪図鑑か?」と思いました(笑)。
本書は4部構成から成り、
1、針の基本的な打ち方、病気別の針の打ち方などを記した聞書
2、灸や針を体のどこに打つか示した図
3、体の中にいる虫の図とその治療法(針灸や漢方薬)
4、臓器や体内の解剖図
特に3で紹介されている「蟲」の図は63点に及び、想像上の「蟲」が上段に描かれ
、下段に蟲の特徴、治療法が記されております。
「馬カン」
心臓にいる虫。日がたって起こる。
「陰虫 かげむし」
男女和合の時に出る虫(何しに出てくるんでしょうね?...カンディンスキー風)。
「亀積 かめしゃく」
傘のような物をかぶり薬をブロックする。飯を食べる。野豆を食べると退治できる。
(傘では野豆がブロックできないのか...)
「肝積 かんしゃく」
肝臓にいる虫。酸っぱい物が好きで、油くさい物が嫌い。常に怒っているような顔
の色である(常に怒っているのが可愛らしい)。
「肝虫 かんむし」
大悪虫。からいものが好き、背骨のある寄生虫。人の中で「そり」という病気を起こす。
木香(もっこう)、白朮(びゃくじゅつ)で退治する。
「気積 きしゃく」
油気の物を好み、魚や鳥も食べる。虎の腹を食べると退治できる(「虎の腹」って?
...しかも、それを手に入れる為に死にそう)。
「蟯虫 ぎょうちゅう」
庚申の夜に体より出て閻魔大王にその人の悪事を告げる虫(是非、手なずけたい)。
「コセウ」
物を言う虫。傘をかぶり薬を受けない。胴は蛇のようで、ひげは白くて長い。甘酒が
好き(甘酒を飲みつつ、何を語ってくれるのだろう?...でも、くだを巻きそう)。
「血積 ちしゃく」
病をした後、胃にいる虫。縮砂(しゅくしゃ)をかければ退治できる。
「肺虫 はいむし」
肺にいる虫。飯を食べ、人玉にも変わる。白朮(びゃくじゅつ)で退治できる。
「脾積 ひしゃく」
脾臓にいる虫。甘い物が好きで、歌を歌う。へそのまわりに針を打つとよい(どんな
歌が好きなんだろう?でも、腹中で歌われたらさぞやかましい事だろう)。
「脾臓の虫1 ひぞうのむし1」
脾臓にいる悪虫。飯を食べる。木香(もっこう)を飲むと退治できる(岡本太郎画伯
ばりの虫)。
「脾臓の虫2 ひぞうのむし2」
脾臓にいる虫。食べ物を受けたり受けなかったりして、人がやせたり太ったりする。
阿魏(あぎ)・我朮(がじゅつ)で退治できる(出来れば痩せるだけにして欲しい)。
「脾臓の虫3 ひぞうのむし3」
脾臓にいる虫。筋を捕まれると、目まいを起こして頭を打つ。木香(もっこう)・大黄
(だいおう)で退治できる。
「肺積 はいしゃく」
鼻は肺の穴である。善悪の臭いが嫌いで、生臭い香りが好き。辛いものが好き。
この虫がいると常に悲しい気持ちになる。針は柔らかく浅く打つとよい。
「腎積 じんしゃく」
別名をホントンという。猪の子が走っているような姿をしている。所かまわず歩きま
わっている。この虫が病気を起こすと口が臭くなる。針の打ち方は色々ある(歩き回
られるとそこらじゅうが臭くなりそう)。
「キウカン」
肺にいる虫で、食物に向かって起こる。別名を肺カンともいう。虫がこの姿になる
と病気が治りにくくなる(じゃあ、この姿の前を教えてくれなきゃ!)針の打ち方は色々
ある。
「脾ノ聚 ひのしゅ」
脾臓にいる虫で、岩のような姿をしている。この虫が起こる時は盤石(ばんじゃく)
の岩の上に落ちるような感じがする。虫がこの姿になると病気が治りにくくなる。針
の打ち方は口伝されている(是非、生き残る為に口伝を聞きたい)。
「腹の虫」
この虫は頭が黒くて体が赤い。この虫が体内にいる時は霍乱(かくらん)を起こす
(下痢や嘔吐)。この虫が口から出てきた時に引き抜こうとすると死にそうになり、離
せばまた腹の中に戻り肝臓に巻き付く。呉茱ゆ(ごしゅゆ)・車前子(しゃぜんし)・木
香(もっこう)で退治できる(そうか!こいつが良く腹で鳴いているやつか...)。
「腰の虫」
腰にいる虫で、この虫がいると腹を下したり汗が出たり、胸元が苦しくなる。木香
(もっこう)・甘草(かんぞう)で退治できる(コイツ飛ぶの?)。
そう言えば、マンガで「蟲師」と言うのがありますが、この辺を参考にしておられ
るのではないか?と思います。
1つ1つの説明を観ますと東洋医学の「陰陽五行説」による説明になっている事が
良く分かります。
そして、日本では昔から「虫の知らせ」、「虫の居所」などと申しますが、その説明を
「蟲の絵」に託す事で、当時の人にとって疾患に対する「イメージ」が付きやすかった
?であろう事が推測されます。まさに「医術版絵双紙」ですね。
(参考)
曲直瀬道三 「養生誹諧」より
曲直瀬道三 逸話 ~望診~
構図とバランス感覚 ~ 歌川広重を観る ~
うどんや風一夜薬
by cute-qp
| 2009-06-29 00:00
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