「指力」は「脳力」

 「プロフェッショナルたちの脳活用法2」 茂木 健一郎より引用・掲載致します↓。

 小野さんの鮨は、”二郎握り”と呼ばれる独特の握り方で知られる。指先と手のひらでシ
ャリとネタを柔らかく包み、ふんわりと仕上げる。微妙な力加減と繊細な指使いとが、目の
中で心地よくほどけるような食感を生み出す。

 人間の手の指は「脳の出先機関」ともいわれている。『脳と心の正体(The Mytery of the
Mind)」(邦訳・法政大学出版局刊)を著したカナダの脳神経外科医、ペンフィールドは、大
脳新皮質のどのエリアが体のどの部分を支配しているのかを調べ、それを地図のように示し
た。脳のエリアの大きさに比例して、体の各所の大きさを描いた図は、「小さな人」を意味
するラテン語で「ホムンクルス」と呼ばれるが、その図を見ると、手や指からの情報を受け
取る脳のエリアは、非常に広範囲であることがわかる。体の部位としては小さくても、手や
指は脳を幅広く刺激する、いってみれば”ウルトラツール”なのである。手や指を使って、
計画的な作業や手順の複雑な作業をすることによって、さらに効果的に脳を刺激することが
できる。

 (中略)

 小野さん以外にも、手や指を駆使して超人的な仕事を成し遂げているプロフェッショナルが
、番組には多数登場している。自身の匠の技を”指力”という言葉で表現していたのは、鬼師
の美濃澄恵一さんだ。

 建物の守り神とされる鬼瓦をつくる職人を、鬼師と呼ぶ。鬼瓦の起源は飛鳥時代にまでさか
のぼる。歴史的な建造物を悪霊から守ってきた鬼瓦は、数百年ごとに新たなものにつくり直さ
れる。古の鬼瓦に込められた魂を、指でなぞりながら新たな鬼瓦に引き継ぐのが鬼師の仕事だ
と、美濃澄さんは話す。

 「目で見るのは。”視力”です。指でなぞったり、つくったりするのは”指力”なんです。
僕は目で見て『これはいい』と思えても、必ず指で確認します。触れたり、撫でたりして
みると、まるで脳が指まで来ているような感じがあるんですよ。だから、『これで大丈夫
か』という判断は、視力ではなく指力に委ねるようになりました」

                                     美濃澄恵一 鬼師


 平成21(2009)年、東京と福岡で開催された『国宝・阿修羅展』。その大盛況の陰には
、文化財輸送の第一人者、海老名和明さんの活躍がある。印象的だったのは、海老名さん
が国宝の仏像を素手で直接触っていたことだった。

 「指先の感覚というのは、われわれの仕事で一番重要なものなんです。もちろん作業
の前にはきれいに手を洗って脂分を落としますが、素手で触って、肌で感じることで、
仏像の質感や重さなどを、自分の体に覚えさせるわけです」

                                 海老名和明 文化財輸送


 美濃澄さんや海老名さんの仕事は、まさに「手の指は脳の出先機関」ということを立証し
ているが、手や指の感覚というのは、使えば使うほど研ぎ澄まされる。たとえば箸でものを
つかむことは、慣れない外国の人にとっては難しい動作だが、日本人なら造作なくできる。
これは、子どものころから箸を使いつづけていることで、箸を適切に動かす指令を出す脳の
神経細胞のネットワークが強化されているためだ。

 箸を自在に操るのは、仮にロボットにやらせようと思えば、恐ろしく複雑で膨大な計算が
必要になる非常に高度な動きなのだ。試しに、利き腕ではないほうの手で箸を使ってみたら
いい。普段、どれだけ複雑な動きで自分の手や指が箸を操っているのかが実感できるに違い
ない。

 私は右利きだが、遊び半分で箸を左手で使うことがある。練習を重ねれば、誰でも普通に
食事ができるくらいの箸使いはできるようになる。これは、使いつづけることで、脳の中に
神経細胞の新しいネットワークが構築された結果だ。

 遊び半分とはいったが、利き腕とは反対の手を使うことは、普段は使っていない脳の神経
細胞を活性化することにつながる。右手は大脳皮質の左半球がコントロールし、左手は右半
球がコントロールしている。慣れない左手で箸を使えば、空間把握やイメージや感情を司る
右脳に刺激を与えることになる。

 この両手使いによるアンチエイジングを、普段から実践しているプロフェッショナルがい
る。世界にその名が知られ、21世紀の最先端を行く建築家の1人と評されている伊東豊雄
さん(68歳)だ。

 伊東さんは文字を右手で書き、図面などのスケッチは左手で描く。もともとは左利きで、
幼少期に文字は右手で書くように親から矯正されたとのことだったが、文字と図で左右の手
を使い分けるというのは、脳の機能に合致している。最初から老化防止を意図して始めたわ
けではないとはいえ、両手でペンを操れるというのは、左右の脳をバランスよく使うという
意味で、非常に効果的なアンチエイジングになっているはずだ。

 伊東さんのように本来は左利きであれば、右手でペンや箸を使うことによって、言語や論
理的な情報処理を担う左脳を刺激することになる。思うように動かせないと感じたときは、
それまで使われていなかった神経細胞が刺激されている証拠だ。そして、少しずつ動かせる
ようになってくれば、それは新たなネットワークが生まれつつある状態だと考えていい。

 (中略)
 
 われわれが日常生活の中で使っている脳のモードは、ごく一部に限定されている。普段は
使っていない脳のモードを意識的に使ってやることは、いわば脳の神経の回路をマッサージ
するようなものだ。凝り固まった肉体をストレッチしてほぐしてやるように、眠っている脳
の回路を呼び覚ましてやることも、脳のアンチエイジングを助ける有効な手段になるはずだ。

 ↑以上、引用終わり。

 本当に、「指力」は「脳力」ですね!

 バランス運動療法(Balance Movement Therapy) 春風堂

(参考)
 「手を鍛える 感覚を鍛える」
 「「人間の感覚」と「触覚の本質」へ
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by cute-qp | 2010-09-22 15:00