「身体の使い方」と「文化」

 相対性の中から生まれる「中心」と「バランス」で野村萬斎さんのお話をご紹介致しました
が、今日はそこをもう少しクローズアップ。

 「狂言サーボーグ」からの引用・掲載です↓

狂言と「腰」

 日本には「腰を入れる」という文化がある。狂言のカマエにも「腰を入れる」という言葉を使う。

 私は一九九四年の九月から翌九五年の八月まで、文化庁芸術家在外研修制度で一年間
ロンドンにいた。シェイクスピアを中心に、演劇の勉強に行ったのだが、教わるばかりでぱ
「ギヴ・アンド・テイク」にならない。お世話になった演劇人にお礼奉公のつもりで狂言を教
えた。

 「狂言ワークショップ」と名付けて狂言独自の演技術を体験してもらったが、カマエなどは避
けては通れない。「先ず膝を曲げて、次に腰を入れて」などと日本語では言えるのであるが
、英語で「腰を入れろ」と直訳しても意味が通らない。そも「腰を入れる」とはどういうことな
のか。

 私が大学生の頃、香港のダンス・フェスティヴアルに参加した。日本の伝統的な「舞」のダ
ンサーとして「三番叟」を踏んだ。諸外国の若手ダンサたちと交流して和やかなものだった。
万人の香港代表のバレエ・ダンサーが人なつっこく話しかけてきた。「君は腰を下に向けて
立っているねぇ。僕らは上に向けて立つんだよ」。

 農耕民族である日本人ぱ、田植えのボーズがキマル。骨盤を下に向けて膝を析ったポー
ズである。お尻の肉を緩めた状態である。重力に洽った形で苗を植えていく。意識は「下
へ下へ」である。今時のクラブにも思わず「腰が入って」踊っているお兄さんお姉さんがい
るに違いない。少なからずディスコと言われていた時代にはいた。

 欧州の狩猟民族は獲物が上にいることが多いせいか、ぱたまた馬に来ることが多いせ
いか、尻を締めて骨盤を上向きにして、「上へ上へ」の意識である。故に劇場もバルコニー
から天井桟敷まである高層型のものが発達し、日本は古来平屋型だとは某ダンス雑誌
編集長の意見である。地震のある国とない国の事情もおるような気もするが、洋舞系の
ダンサーの尻が引き締まっていて良いなどと騒ぐ人がいるのは、彼らが思わず尻を締め
て歩いているからであろう。

 「跳ぶ」ということも実は裏がある。バレエなどは上に向かって跳ぶのだが、能楽では
下に向かって跳ぶ。一見矛盾する言葉だが、跳躍にぱ二段階あって、頂点を境に跳び
上がる部分と、降りる部分がある。

 「上へ上へ」のダンスでは当然跳び上がる方に意識があり、上にいる観客に対して近
付くのだから、演技のヴェクトルとしても有効である。一方観客が舞台の下から見上げる
能舞台では、降りる部分の方が観客に対して有効である。空中で一瞬静止し、岩のよう
に落ちてくる所にその醍醐味を見せる。

 一九九〇年に東京グローブ座で「ハムレット」を主演した。初めての洋物の芝居で、初
めて靴を履いて演技をしたデンマーク王子も「腰が入って」いては様にならない。爪先を
九〇度に開いてお尻を締め、カマエとスリ足を、バレエ立ち・モデル歩きに換えて舞台に
臨んだ。それ以降テレビドラマで赤いスカーフを首に巻き、車を運転する演技もしたが、
私の日常は従来通り、狂言の舞台に「本腰」入れて臨むことである。

 ↑以上、引用終わり。

 バランス運動療法(Balance Movement Therapy) 春風堂
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by cute-qp | 2010-04-18 00:00