日本人の身体技法 (2)

 昨夜に引き続き、矢田部英正氏 著「たたずまいの美学」より引用・ご紹介致しま
す↓。

帯の姿勢保持機能

腰の入った」姿勢、つまり「第五腰推心とした体と体の拮抗関係」は、
日本における物質文化(和服の着装様式や装身具、坐具の形態や歩行様式など)
の特性を基層のところで支えている身体技法であると考える。その一つの理由と
して日本の服飾様式は、腰まわり中心とした「の着付け方」に造形的美感
中心がある。

 西洋服飾様式が、主に「」を基準として肉体の理想的な均整を服に縫い
込もうとしてきたのに対して、日本の「キモノ」の場合は、「骨盤」を中心として平面
的な構成の布を左右内袷に羽織るのみで、肉体の形はまったく面復い隠される。
このゆとり量の多い構成方法によって、和服の着用時にはいたって抜け
ている。女性が用いた「帯揚げ」の着付け方についても、鳩尾ゆるめ半身全体
を常にリラックスさせるための役割をはたしていることを指摘した。

 そもそも「怒る」という言葉は「上がる」という身体状況に由来し、これと同様
の状況を形容する言葉には「肩肘はる」「据えかねる」という表現も存在する。
これらの言葉からも日本人は身体技法の基本として、常に抜けた、いわ
ゆる「上虚」の状態を重んじていたことが想像される。

 (中略)

 半身がリラックスし、半身の安定した「上虚下実」の基本姿勢は、僧たち
中心となってその技術の体系を構築したのだが、これと同様の技術は武芸
基本姿勢にも見られる。武芸書の「構え」には、基本姿勢に関連して「」の
締め方足腰操作などが一連の「」として規定されている。まずは引用文
から見てみよう。

 敵と立ちあはぬ先に、下作りにおもひつめて念を入れ、心に油断なくして、立ち
あふてからふためかぬ様に心かくる事、肝要也。

 水も上より落つるには声なし。物にさはり、下へおちつきて下にていそがはしく
声がする也。

 是をたとへに引きて、上は静にして、下は気懸に保つといふ也

                            (柳生宗矩『兵法家伝書』岩波文庫)

 肩より惣身はひとしく覚え、両の肩を下げ、うしろをろく(まっすぐ)に、尻を
出さず、膝より足先までカを入れて、腰のかがまざるやうに肚をはり、くさびを
しむるといひて、脇差しのさやに肚をもたせて帯のくつろがざるやうにくさびを
しむる
といふおしへあり(86)。
                            (宮本武蔵『五輪書』岩波文庫)
 
 これらはともに戦国末期を生きた武人の晩年の記述であるが、双方に共通する
構えの基本というのは、「静かに」「気懸に」あるいは「両下げる
はる」「くさびしめる」というように、半身はあくまでリラックスさせて、腰・
肚・下腿
など半身を緊張させる意識をもつという点において、基本的に同じ考え
をもっている。こうした兵法基本姿勢は、和様仏の坐相にみられる「上虚下実
基本的に同質の身体技法であると言っていい。

 とくに武蔵の場合、身体技術に関する記述が詳細かつ明確で、たとえば「膝より
足先までカを入れ」ることは、爪先重心の「はきもの」の様式、なかでも「足半」の
身体技法を即座に連想させる。また「くさびしむる」という表現は、骨盤部分に
装着された「」と「脇差し」を腹圧によってさらに緊迫させる意味であり、ここには
半身の充実を促すために装身具を有効に利用する方法が説かれている。さらに
腰のかがまざるやうに肚をはり」というのは、骨盤腹屈呼吸で防ぐための
一つの技術であり、おそらくこのことに関連して、男性のには「腰板」という骨盤
後傾斜防止するための機能が付与されたことが考えられる。
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by cute-qp | 2008-12-18 00:00